2025年お正月

日本の記憶と香港への願い

子供のころに肌で感じた師走から新年にかけてのワクワクしたあの独特な空気感は新暦の年末年始には香港ではほとんど感じることはない。もう何年も年末年始を日本で過ごしたことがないので最近の日本の雰囲気は分からないがきっとそれは薄れているんじゃないかなと思っている。クリスマスケーキがバタークリームから生クリームに変わった衝撃は今もはっきりと記憶に残っている。僕の実家には小ぶりな芝生の庭があった。年末には餅屋さんが杵と臼をもってきて蒸したもち米を注文をうけた近所の家向けについていた。つきたての餅を長方形の木箱にいれて集まったおばちゃんたちが総出で小さく丸めていく。いくつもの長い木箱の中にいっぱいの小さな餅とデーンと存在感を占めす大きな鏡餅が縁側にならんでいた。あっという間に注文分をつきおわると餅屋さんはつぎの餅つき場所へ移動していく。毎年の子供のころの思い出だ。父親が締め飾りを玄関に飾って床の間には大きな鏡餅、ダイダイとするめを切り込みをいれた半紙の上に飾り付ける。横には頂いた一升瓶の酒と焼酎が何本も並んでいた。正月の準備の買い出しに母親についていくと小さな商店街には威勢のいい魚屋さん、八百屋のおじさん達の声が響いていた。「迷子にならんごとついて来んばよ」キョロキョロしながら母親の後をついて歩いた。

さて、香港はというとやはり旧暦の年末年始には雰囲気の種類には違いはあるが日本で子供のころに感じたワクワクするような高揚感を感じることがある。今年の旧暦のお正月は1月29日、30日、31日だ。その日が近づいてくるにつれて街中はどこもザワザワ感が漂ってくる。「街市」という香港独自のオープンマーケット(市場)のおっちゃん、おばちゃんたちの掛け声もいつもより大きくなってくる。人出は一気に増えるし年末セールが始まって繁華街からローカルの商店街やショッピングモールは多くの買い物客でごった返しとなる。そして年があけるといたるところで銅鑼と太鼓の大音響とともにライオンダンスが練り歩くのだ。活気はある。盛り上がる。それが僕が知っている香港の旧正月だ。静かに遠目に華やかな旧正月を祝う香港人が増えないといいけどなと願うのみだ。