香港の人口は約700万人だ。そのうち日本人の数はおおよそ2万人程度らしい。正確な数字は知らない。香港サイドに日本人限定(?)の日本人がひとりで営んでいるバーがある。7〜8人向けのカウンターと4人がけのテーブル席がひとつの小さなスペースだ。2週間前の13日の金曜日、9時前にお客様との食事を終えて行ってみることにした。少し大きな木製の扉を引いて中に入るとマスターが一人グラスを磨いていた。「忙しそうやね?」と、いつもの皮肉言いながら椅子に座ると「お陰様で」と笑って返してくれる。「俺、最初?」と聞くと(要するに今日お店を開けて初めての客なのという意味で)「はいッ」とまた笑顔で返してくれた。「うち金曜日は出足が遅いんで」と続けた。グラスを磨き終えたマスターが「何にしますぅ」とまた笑顔で聞いてくる。『7時に開けて2時間弱ずっと一人で寂しかったのかなぁ』そう思いながら「何にしようかなぁ〜」お店に来てくれるタイミングを測っていて「はるさん(私の呼び名)は、最近来てないからキープしないほうがいいっすよ」「ショットでいいっすか?」と商売っけまったく無しで言ってくる。「あっそう、じゃあのヨードチンキみたいなんある?」「アードベック?」「ありますよ、ロックでいいっすか?」返事をする前にさっきまで磨いていたロックグラスに手作りの氷をアイスピックで削って形を整え始めた。それから静かにグラスに透明な液体を注ぎ終わるとマドラーでひと回しして出してくれた。ほんの少しの量を口に含んだ後、飲み込んで「やっぱりヨードチンキやね」「ですよねぇ〜」マスターがうなづきながら笑ってくれた。
つづく